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プロダクトを弱くするのは、機能不足より“未選択”かもしれない

2026-04-08
バーチャルパワープラント(VPP)とエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)の仕組みから、技術的な深掘り、客観的な価値評価、普及に向けた課題までを多角的に解説します。

エンタープライズにおける新規事業や新しいサービスの開発を見ていると、よく思うことがある。

それは、プロダクトが弱くなる原因は、必ずしも機能不足ではないということだ。
むしろ多いのは、その前段階で「何をやるのか」「誰のためにやるのか」「どこまで自分たちが責任を持つのか」が曖昧なまま進んでしまうことだと思う。

議論の場では、よく前向きな言葉が並ぶ。

対象顧客を広く取りたい。
いろいろな用途に対応したい。
将来的な展開も見据えたい。
柔軟な仕組みにしておきたい。

一見すると自然だし、むしろ筋が良さそうにも感じる。
でも初期フェーズでは、この手の言葉がそのまま意思決定の先送りになっていることがある。

問題は、多くの場合、それが本当の意味での戦略ではなく、単にまだ選べていない状態だからだ。

似て見える市場は、だいたい別物

同じカテゴリに見えるサービスでも、顧客や利用シーンが変われば、実態はかなり違う。

誰が導入を決めるのか。
実際に使うのは誰か。
何に困っているのか。
導入後に評価されるのは何か。
運用でどんな手間が増えるのか。
障害や例外が起きたとき、誰が一番困るのか。

こうした条件が違えば、必要な機能も、優先順位も、あるべき運用も変わる。

それでも「似た市場だから同じ土台で広く取れるはず」と考え始めると、要求が少しずつ混ざり始める。
その結果、どちらにも使えるようにという名目で汎用化が進み、最終的には、できることは増えたのに誰にとっても決定打にならないプロダクトになりやすい。

営業資料では魅力的に見えるのに、実際に使うと面倒。
一見広く戦えそうなのに、どこでも強くない。
こういう状態は珍しくない。

一見シンプルなサービスほど、裏側はシンプルではない

特に、現場設備や外部システム、運用ルールとつながるサービスは、この傾向が強い。

表から見ると、やっていることは単純に見える。

  • 何かを開始する
  • 状態を見える化する
  • ルールに従って制御する
  • 利用実績を管理する

でも、実装の現場ではまったく違う景色になる。

開始とは何を指すのか。
終了はどの時点なのか。
途中中断はどう扱うのか。
通信が切れたらどうするのか。
複数の機器や利用者が絡んだとき、どれを正として記録するのか。
責任範囲はどこまでか。
例外時に誰が困るのか。
何を保証して、何を保証しないのか。

つまり、見えている機能の背後には、定義しなければならない境界条件が大量にある。

ここが曖昧なままだと、開発は急に苦しくなる。

小さな機能追加のはずなのに、毎回「そもそも前提は何か」を掘り返すことになる。
実装の難しさというより、未確定の前提を吸収する仕事が増えるからだ。

開発がつらいのは、技術が難しいからだけではない

現場にいると、技術者なんだからそれをどうにかするのが「このサービスは難しいですね」で片付けられることがある。 でも、本当にしんどいのは、技術そのものよりも、上位の未選択や未定義が実装側に流れ込んでくることだと思う。

誰向けのプロダクトなのかが決まっていない。
何を最優先で解くのかが決まっていない。
何を捨てるのかも決まっていない。
責任分界も曖昧。
その一方で、「前に進めること」だけは求められる。

この状態で起きるのは、現場が頑張って穴埋めする構造だ。

仕様の解釈も、例外処理の整理も、運用の想像も、結局は開発側や実務側が背負うことになる。
すると、仕事はどんどん消耗戦になる。

「何を作るか」ではなく、
「曖昧な構想をどう成立させるか」
が仕事になってしまうからだ。

「未選択」には、いくつか種類がある

ここで少し厄介なのは、「まだ決め切れていない状態」がすべて同じではないことだ。

仮説検証の初期段階で、まだ選び切れていないことはある。
それ自体は自然だと思う。
また、すべてを自前で持たず、外部パートナーを活用することも普通に合理的だ。

問題は、その結果として、顧客価値の中核や成立責任まで外に置かれてしまう場合だ 。

たとえば、サービス全体を構想しながら、顧客接点の運営、課金、問い合わせ対応、障害時の一次責任といった重要な部分は持たず、一部の機能やデータ提供だけを担う形に退くことがある。

役割分担そのものは悪くない。
ただ、その分担によって「誰が価値の成立に責任を持つのか」が見えなくなるなら、それは戦略的な選択というより、難しい部分を避けた結果として中核を失っている状態に近い。

何をやらないかを決めることは大事だ。
でも同時に、何に責任を持つのかも決めなければ、プロダクトは強くならない。

売れない理由は、営業力ではなく商品定義の曖昧さかもしれない

売れないプロダクトを見ると、つい営業の問題に見えがちだ。
でも実際には、その前段で詰まっていることが多い。

誰に売るのか。
何の課題を解くのか。
導入したら何がどう良くなるのか。
どの価値を最優先するのか。

ここが曖昧だと、営業は説明しにくい。
開発は優先順位を決めにくい。
利用者は価値を感じにくい。

結果として、社内では「いろいろできる」ことが評価されるのに、市場では「これでなければならない理由」が弱いままになる。

これはかなり苦しい。

初期フェーズで必要なのは、拡張性より選択

新規事業で本当に必要なのは、最初から広く取ることではないと思う。

必要なのはむしろ逆で、

  • 誰を狙うのか
  • 何を最優先で解くのか
  • 何をやらないのか

を先に決めることだ。

その結果として、対象市場は一時的に狭く見えるかもしれない。
でも、その方がプロダクトは強くなる。

最初の一歩で勝てる形にしないと、後から広げることもできない。
最初から全部取ろうとすると、たいてい全部取り逃がす。

いま振り返って思うこと

プロダクトづくりでは、技術力ももちろん大事だ。
でもそれ以前に、選ぶ力が大事だと思う。

何をやるか。
誰のためにやるか。
どこまでやるか。
何を捨てるか。
そして、何に責任を持つか。

ここを決めないまま、「可能性がある」「広く使える」「将来展開できる」と言い続けると、現場はかなり苦しくなる。

一見前向きな言葉に見えて、実際には意思決定の先送りになっていることがあるからだ。

だから最近は、サービスや新規事業を見るとき、機能の多さより先にこう考えるようになった。

このプロダクトは、ちゃんと何かを捨てているか。

そこが見えないものは、たいてい開発も運用も苦しくなる。
そして市場でも、思ったより強くならない。

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